三十の詩句の集成 ー [尼僧の告白]より

尼僧の告白―テーリーガーター (岩波文庫 青 327-2)

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より。

「三十の詩句の集成」 75ページから。

366
[名医]ジーヴァカの楽しいマンゴー林に向かって歩いていく尼僧スバーを、一人の悪者がさえぎった。スバー尼は、彼に対して言った、ーー

367
「あなたは、私の行く手をさえぎって立っていますが、私はあなたになにか過ったことをしたのでしょうか? 友よ。男子が尼僧に触れることは、宜しくありません。

368
わたしの師の厳重な教えのうちには、幸せな人(ブッダ)が説き示された<学ぶべきことがら>があります。全く清らかな境地にあり、汚点のないわたしを、あなたは、なぜさえぎって立っているのですか?

369
わたしは濁りなく、塵垢を離れ、汚点もなく、こころはあらゆる点で解脱しているのに、あなたは、濁ったこころで、塵垢にまつわられて、なぜわたしをさえぎって立っているのですか?

370
[誘惑する男いわく、ーー]「あなたは、若くて、美しい。あなたは、出家したとて、なんになるのです? さあ、黄衣を投げ捨てなさい。花咲く林のなかで、一緒に遊びましょう。

371
高くそびえる木々は、花粉を撒き散らして、四方に甘い香りを放っています。初春は、楽しい季節です。さあ、花咲く林のなかで、一緒に遊びましょう。

372
また木々は頂きに花を咲かせ、そして、風にゆられて音を立て、叫んでいるかのごとくです。もしも、あなたが一人で林の中に入っていったならば、あなたに、なんの楽しみがあるでしょう。

373
猛獣の群れが出没し、牡像に刺戟されて恋に狂う牝像が騒がしく音を立てる、人気がなくて淋しい大きな林の中に、あなたは、伴の人もなく、一人で入ろうと望むのですか?

374
あなたは、ピカピカ光る黄金で作られた人形のように、またチッタラタ園の天女のように、歩きまわっておられる。たぐいなき美女よ、カーシー産の優雅・美麗ない服を着たならば、あなたは美しく映えて見えます。

375
もしも、あなたが叢林のなかに住もうとなさるならば、私はあなたの御意のままになりましょう。柔和な目をした女(ひと)よ! 妖精キンナリーよ! あなたよりも愛しい人は、わたしにはいないからです。

376
もしも、あなたがわたしの言葉のとおりになさるならば、あなたは幸せとなって、ーーさあ、在家の生活を営んでください。風の吹き込まぬ静かな宮殿に住んで、あなたは、侍女たちにかしずかれよ。

377
カーシー産の優美な衣服を着てください。花飾りや香料・塗油を身に着けてください。黄金・宝石・真珠といった多くの様々な装飾品を、あなたのために作りましょう。

378
よく汚れを洗い去った覆いがあり、毛布を敷いた、栴檀の香木で作られ、その木の髄の香りがにおう、美しく新しく、高価な臥床に、のぼって寝てください。

379
水の上に伸びて出てくる青蓮華が人にあらざるものども(水の精たち)にまつわられているように、それと同様にーー行いの清らかな女人よ!ーーあなたは、肢体が自分のものであるうちに(男に触られないうちに)、老いてしまうでしょう。」

380
[スバー尼曰く、ーー]「死骸に充ち、死骸の棄て場所を増大させるものであり、壊滅する性質のものであるこの身体のうちで、何をあなたは本質と認めるのですか? ーーその(本質)を見て、あなたは呆然自失して(わたしを)見つめておられるがーー。」

381
[誘惑する男いわく、ーー]「あなたの眼は、山の中の牝鹿や、妖精キンナリーの眼のようです。あなたの眼を見たので、わたしの愛欲を楽しみたい気持ちは、ますます募りました。

382
蓮の花の蕾に似た顔、黄金に似た汚れなき顔のうちにあるあなたの眼を見てから、わたしの愛欲の深層はいよいよつのりました。

383
たとい、あなたが遠くへ去っても、わたしは[あなたを]おもっているでしょう。長い睫毛の女(ひと)よ! 眼(まなこ)の清く澄んだ女(ひと)よ! わたしには、あなたの眼よりも愛しい眼はないからです。柔和な目をした女(ひと)よ! 妖精キンナリーよ!」

384
[スバー尼曰く、ーー]「あなたは、邪道を行こうと望んでいます。あなたは、月を玩具にしようと求めています。あなたはメール山(須弥山)を一跨ぎにしようと望んでいます。ーーブッダの子(仏弟子)を獲得しようと企むあなたは!

385
けだし、神々と人間の世の中において、いまや、わたしが貪りを起こす[対象]は、どこにもありません。また、わたしは[貪りが]いかなるものであるかも知りません。それは、[聖者の]道によって根絶されているのです。

386
それは、灼熱している炭の穴から出て来た(火花)のように撒き散らされています。それは、毒を盛った器のように、価をつけられました。また、わたしは[貪りが]いかなるものであるかも知りません。それは、[聖者の]道によって根絶されているのです。

387
[世には]まだ[真理を]洞察せず、あるいは、師に仕えたことのない女(ひと)がいますが、あなたは、そのような女を誘惑なさい。あなたは、すでに識見を得たこの女を[誘惑しようとするならば]、悩むことになるでしょう。

388
罵られても、敬礼されても、苦しいときにも、楽しいときにも、わたしの慎んだ気づかいは確立しています。<形成された事物は不浄である>と知って、[わたしの]こころは、いかなるものにも汚されません。

389
だから、わたしは、幸せな人(ブッダ)の尼弟子であり、[正しい]道の八つの実践法よりなる乗り物に乗っていくものです。わたしは、[煩悩の]矢を抜き去って汚れなく、人のいない家に入っていって、(ひとりで)楽しみます。

390
わたくしは、美しく彩色した、新たな木製の霊妙なあやつり人形を見ました。それは、紐と釘とでしっかりと固められていますが、いろいろな踊りを見せてくれます。

391
そのあやつり人形が、紐と釘とを抜き取られ、ばらばらにほごされて、欠けたものとなり、もとの姿をとどめず、部分だけの切れ切れなものになっていしまうと、そこで人は、どこに心をとどめるでしょう。

392
[我々の]この小さな身体は、そのように[あやつり人形に]譬えられるが、これらの事象がなければ、存在しない。これらの事象がなければ、存在しない[のであるから、]ひとは、そこで、いかなるものに意をとどめられるでしょうか?

393
あなたが、黄色絵具で塗られた壁画を見たように、あなたは、その[身体]に、顚倒(てんどう)した見解をいだいたのです。人間の知慧とは、無益なものです。

394
盲たる(愚かな)ひとよ。目の前に作り出された幻術による姿のごとく、夢の終わりに見る黄金の樹のごとく、人々のなかで見せる影絵のごとく、うつろなるものに向かって、あなたは走っていきます。

395
[眼は]空洞の中におかれた小さな球であり、[眼の]中央には泡状のものがあり、涙を出し、目やにもそこに生じます。多種多様の眼が球体として作られます。

396
眉目麗しく、こころに執著のない[スバー尼]は、眼をえぐり出して、執著しなかった。「さあ、この眼をあなたのために、持ち去ってください」と言って、即座にそれをその男に与えた。

397
彼の愛欲の念は即座に消え失せた。そうして、彼女に恕しを乞うた。ーー「行いの清らかな女(ひと)よ。健やかであれ。このようなことは、もはや致しますまい」と。

398
[また]「燃え立つ火を抱くように、わたしは、このような人を害なった。わたしは、謂わば、毒蛇をつかんだ。どうぞ、お健やかに! さあ、[わたしを]お恕しください。」

399
その尼僧は、その男からのがれて、妙なるブッダのみもとに行った。[ブッダの]妙なる功徳の相を見て、[かの女の]眼は、もとどおりになった。

ジーヴァカのマンゴー林に住むスバー尼

30の詩句の集成終わる。

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